親指はなぜ太いのか ―直立二足歩行の起源に迫る
島泰三
中公新書1709(2003) \880+
ISBN:ISBN4-12-101709-9

親指はなぜ太いのか 表紙

著者は、下関西高-東大理人類学教室卒の山口県出身の人。 永年、房総半島の日本猿の野外観察を行い、マダガスカルの原猿類も研究されている。 本書は、先ずマダガスカルの原猿類の多様な姿を紹介する。 筆者の研究の原動力は、アイアイという日本では童謡で親しまれている原猿が、 イメージとほど遠い奇怪な指(中指が針金のように細く長い、親指が大きい)と、 まるでネズミやウサギの仲間のような伸び続ける前歯を持つ理由を解明したいということであった。 夜行性の小さなアイアイの生態の研究は困難を極めるが、 遂にラミーという木の実の硬い種を親指のしっかりした手で支え、殻に歯で穴を穿ち、 針金状の中指で栄養に富んだ中身をほじくりだして食べる事がわかった。 このことから、全ての猿は、手と歯がその生態に調和して発達する事を示した。 これを進めて、人間の手の親指が相対的に大きいこと、犬歯の小さなエネメル質の発達した臼歯を持つことは、 肉食獣の食べ残した大きな骨を石でたたき割って、 中の骨髄を骨ごと臼歯ですりつぶして食べるという生活スタイルから発達したものであると説明した。 骨と石を握りしめて二本足でサバンナの縁を隠れるように走る数百万年前の人類の姿を想像して、 この説にいたく共感した。大リーガーがダッグアウトでずらっと並んで、ガムをかんでいるのも納得できる。 姪子さんに描いてもらったという、扉や挿絵がすばらしい。

(溝田 忠人)