ジャガイモの世界史 ー世界史を動かした「貧者のパン」
伊藤彰治
中公新書1930(2008) \840
ISBN:978-4-12-101930-1

ジャガイモの世界史 表紙

食糧自給に興味があり、店頭でタイトルが目に入った本書を求めました。副題にあるようにジャガイモは、言わずもがなの重要な食材です。栃木の足尾銅山の公害に農地を奪われ、北海道に入植した農民が命をつないだ話から始まって、南米ペルー、チチカカ湖のほとりを原産とするジャガイモが、ヨーロッパに運ばれた後、世界と日本中に広まる過程で遭遇するドラマが豊富な取材に基づいて書かれています。スペインにより新大陸から奪われた金銀財宝は、ヨーロッパのインフレと植民地支配を助長しただけでしたが、同時にもたらされたジャガイモは、芽、茎、花に含まれるソラニンという毒があることや、当時ヨーロッパでは地中のいわゆる「根菜」を食べる習慣が無かった事から、偏見があり、美しい花を観賞するだけでした。しかし、その豊富な栄養と、寒さに強く、栽培も容易な特徴から、次第に普及し、例えば、気候の厳しいアイルランドの岩ばかりの地で、岩を砕いて作った土(?)に根付いて人々の主食となるなど、各地の冷害の危機を救い、兵站食糧として奨励され、流刑地シベリアまで広まったのです。日本にも、長崎に導入された後、改良されて各地に広がり、戦前から戦後にかけて、食糧難の時代の人々を支えました。ただし、1930年代の岩手県の宮沢賢治の「寒さの冬」をジャガイモが救う事が出来なかった主な理由が、耕作期間のタイミングと自然条件により種芋の保存が出来なかった点にあったそうです。知識だけで食糧危機は回避できない、営々としたその土地の農民の農業技術の蓄積が必要なのです。近い将来、食糧難が到来する時、世界を救う食材として再び注目されることになるかもしれません。ドイツの「クライネガルテン」(小さな庭)という都市菜園の伝統システムの記述は、日本の自給率向上のために必要な産業体質改善のヒントになるように思います。

(溝田 忠人)