農から環境を考える
原剛
集英社新書0092(2000) \690
ISBN:4-08-720092-2

農から環境を考える 表紙

毎日新聞の社会部記者で、日本の農業に危機感を覚え、日本ばかりでなく世界各地と要人に取材して、日本の食の将来をどうすべきかを考察した本です。8年前の本ですが、今読んでその先見性が際立っています。地球温暖化については、2007年ゴアと共にノーベル平和賞を得た「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」のノールウェイのバート・ボリン議長(当時)にインタビューし温暖化の科学的裏付け、対策を書いています。例えば、スウェーデンでは、パルプ産業が使う電力を供給する石炭火力発電所のCO2排出を減らすために木材チップの燃焼を使うようにしたが、これは主にセルローズの燃焼による。そこで、木材の成分の半分を占めるリグニンをもエネルギー源として利用する方法を確立し、燃焼効率を高めた。日本は一人当たりアメリカの半分のエネルギー消費で、アメリカと同程度の生活水準です。日本も、褒めた状況ではないが、これは、エネルギー使用が多ければ豊かな生活ができる訳ではないことを示している。PCB汚染は、海獣などの体に最終的に農集し、イルカでは、雌のイルカより雄のイルカの方が、PCB蓄積度が高い。その理由は、出産・育児に母乳として子にPCBの農集しやすい脂肪を大量に与えるので、雌のPCBが減るからです。ということは、子は小さな体に大量のPCBを受けとるのです。中海干拓や諫早湾干拓など効果の疑問視される巨大開発により生態系を危うくする公共事業とは何なのか。公共事業に反対する住民がNGOを形成していった。水と森林の例では、白神山地で林道開発を食い止め、養魚と持続的林業を続けている黒沢喜久男さんの取り組み;インドの農業を立て直し自給を達成したモンコンブ・スワミナタン博士と、米国の環境学者レスター・ブラウンの中国の農業の将来に対する見解の相違については、8年前の本なので、現在は新たな知見が加わって、より興味深く感じます。この本では、両者ともヒマラヤの氷河の融解に就いては触れておらず。今では、これに起因する水不足の問題が、インド、中国の農業の将来に大きな影を落としています。山形の最上川流域の高畠町の星寛治さんの有機農業による自給農業が全国から毎年2000名もの見学者を呼び寄せ、多くの農業従事移住者まで引き寄せている;高知大学の大野晃教授が、四万十のある村が、山間地の疲弊に対抗して耐えていることに着目し、その理由が、他の村と異なり杉等の針葉樹を減らしてクヌギ、ナラなどの伝統的な広葉樹を保ち、シイタケ栽培と製炭で衰退を食いていると突き止め、ゼミの学生を毎年派遣して、農作業や老人のデイケアを手伝いながら地域社会の現状を学ぶ活動を組織している;ドイツと旧ソビエトの伝統的家庭菜園がきちんと国により位置づけられ、文化として定着し、危機に際しては食糧源として機能したこと;等、豊富な例で読むものを飽きさせない。今も日本はこの本に学ぶ必要があります。

(溝田 忠人)